乱数放送をご存知でしょうか。
普通の人には何の意味があるのか解らないような、数字の羅列やブザー音のみを放送するラジオ放送の事を言います。
このような放送を日本では乱数放送、海外ではNumber StationやSpy Broadcastsと呼ばれ、人々の興味を引き付けてきました。
この放送は古くから確認されており、発信源は多くの場合は不明で、長距離に伝えられるように短波放送かAM放送が一般的に用いられています。
乱数放送は世界中の無線愛好家によってその存在が明らかにされてきましたが、放送の目的は様々な組織の諜報機関が諜報部員へ指令を送るために使用されていると言われています。
今回はこの乱数放送について海外の情報も参考に、情報をまとめてみたいと思います。
歴史
乱数放送は少なくとも1980年代にはすでに放送されていたことが判っています。
1980年代にイギリスのGCHQ(Government Communications Headquarters):情報通信本部にて、イギリス本土に送信されている乱数放送を傍受し、解読する役目を担う部署が本当に存在していたことが判っているからです。
元GCHQで、情報通信本部の役員だったある人物はBBCの取材に対して、それら乱数放送は国内にある外国大使館や諜報エージェントの為に放送されていたと確信していると語りました。
一説によると乱数放送は冷戦時代から使用されていたと言われています。
先に紹介した元GCHQ役員の話を元にするとは始まりは1980年代かと思うかもしれませんが、冷戦時代から利用されていたとすると、すでに1945年~1990年程度の間には活用されていた可能性があります。
実際、乱数放送の中には古いモールス信号のような音を発信しているステーションも存在します。
私見ですが、技術的に難しい技術ではないので、すでに冷戦時代には始まっていたと見て良いでしょう。
乱数放送とはどういった放送なのか
乱数放送は、一見意味のない数字の羅列の読み上げや、ブザー音によって放送されると説明しました。
これらは、いままで一般の人々によって、多くの乱数放送が存在することが明らかになっています。
実際にYouTubeには様々な乱数放送がアップされています。
アジアからの放送
アジアからの放送でよく傍受されるのは、北朝鮮からの諜報員へ向けて放送していると思われる乱数放送です。
YouTubeに北朝鮮の乱数放送の動画がありました。
北朝鮮の乱数放送については、2001年からは一時期放送がとだえていたということですが、2017年になって16年ぶりに放送が復活したとのニュースがありました。(参考:聯合ニュース)
乱数放送が、諜報活動を行うスパイに対して行われているとすると、乱数放送が活発化するということは、なにか情勢変化が起こりえる前触れとも言われています。
現に北朝鮮に関していえば、2017年から対外的に核開発やロケット開発が活発化した年でした。
ヨーロッパ・アメリカからの放送
一方で、ヨーロッパやアメリカからの放送では、ロシアからの乱数放送や、イスラエルの諜報機関モサドの放送、それ以外でも英語・ドイツ語の放送等が確認されているようです。
ロシアからの乱数放送と呼ばれている物で有名なのは、UVB-76と呼ばれるブザー音の放送です。
この放送が有名なのは、確認されてから実に40年も放送が続けられている点と、多くの放送がブザー音で構成されているユニークな点にあります。
下のYouTubeが実際のUVB-76です。
この放送は、もともとモスクワから放送されていたということですが、2010年からは発信源が移動して西ロシアから放送されているようです。
また、この放送は生放送のようで、ある放送回では放送している周りの音声が入り込んでしまった放送もあったそうです。
その放送で入り込んだ音声には、「私は143番、ジェネレーターを貰っていない。ハードウェアルームのあれだ」という言葉が入り込んでいました。
上記のUVB-76の他に、数字の羅列と音が組み合わされている乱数放送もあります。
乱数放送についての疑惑
先ほどの、UVB-76に紛れ込んでしまった音声を聞くと、いかにも諜報機関が使用しているような雰囲気に聞こえてきてしまします。
しかし、実は乱数放送には、諜報活動に使用されているのではなく、壮大ないたずらではないのかという説もあるのです。
確かに短波放送やAMラジオの放送することは技術的に難しいものではなく、いたずらで行おうと思えば不可能ではありません。
Conet Projectという、こういった乱数放送を積極的に傍受して、ネット上に保存し公開している組織があります。
このConet Projectの創始者であるAkin Fernandez氏によると、無線電波の規模から考えると送信設備を整えるのに何百万ポンドも必要になると言います。
1ポンド145円換算で、百万ポンドは145万円になりますので、数百万ポンドは相当な金額になります。
このような理由から、Fernandez氏はいたずらの可能性は低いと主張しています。
なぜ乱数放送を使用するのか
乱数放送が諜報活動に利用されていると仮定して、現代では通信手段が多くある中で、なぜ敢えてラジオ放送を使っているのでしょうか。
これには、現代の発達した通信手段では通信した足跡が残ってしまう事が理由と考えられています。
例えば、現代の携帯電話では国内でも国際でも、PBXと言われる交換機に何番から何番へ電話がかけられたかが残ってしまいます。
また、e-mailでも経由するサーバーにはその足跡が残ります。
一方乱数放送では、諜報員が目的の国に潜入して安易なラジオさえ購入できればいつでも受信可能です。
また、暗号を読み取るために紙にコードを書いても、不測の事態の場合は紙を燃やしたり、食べてしまったりして完全に消去する事も可能となります。
しかし、メール等をはじめとしたPCを利用する通信では、PCでファイルを削除したとしても完全に削除するのは難しいのです。
そのため、諜報機関はこの時代であっても敢えて、ラジオ放送を使用していると考えられています。
どうやって乱数放送を聞くことができるのか
我々一般人が乱数放送を聞くには主に2つの方法があります。
一つは、AM短波ラジオ放送を受信できるラジオを購入して、様々なサイトで情報交換されている乱数放送の時間と周波数を合わせて、ラジオから直接聞くことができます。
しかし、ラジオでの傍受は周波数と放送時間を調べるのも手間です。
特に生で聞く必要がないのであれば、ネットを活用するのが一番簡単です。
上で紹介したように、YouTubeでも乱数放送がアップされています。YouTubeの場合は、乱数放送自体が意味が解らず不思議な印象を与えるので、怖い画像が付いているものも多いので、怖がりの方は注意してください。
また、それ以外でも先に紹介した海外サイトのConet ProjectやSpy Numbers.comでは、録音された放送が聞けるだけでなく様々な情報を閲覧することができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
身近なラジオ放送の中に実はこのような放送も混ざっていることをご存じなかった方もいたかもしれません。
乱数放送は無線愛好家の方々の間では、かなり昔から知られた放送です。
また、諜報活動というのは一般の世界とはかけ離れた場所で行われていると思われがちですが、こんなにも身近に、大っぴらに通信を行っているのにも驚かれたのではないでしょうか。
日本ではあまりニュースにもならないかもしれませんが、世界中のいたるところで発生する混乱の中では、国家間の諜報活動が影響していることも多いと言われています。
国で言えば、かつて植民地を持っていたような国には必ず諜報機関があり、かつての植民地支配に一躍買っていたのです。
私たちは、通常の暮らしの裏側には、このような諜報活動も行われている世界が身近に存在することを、知ることも重要なのかもしれません。
参考サイト:
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